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江戸小紋染職人 廣瀬雄一さんに訊く『ヨガと江戸小紋の関係』

2019.07.30
  • コラム

江戸時代から続く伝統文化を担う染職人
江戸小紋廣瀬染工場4
代目廣瀬雄一さん
ヨガをするのは、いい江戸小紋を作るため

創業100年を迎えた「江戸小紋」廣瀬染工場の若き4代目、廣瀬雄一さん。実は、10歳から始めたウインドサーフィンでは、シドニーオリンピックの強化選手として活躍するという腕前も。生粋のスポーツマンでもある廣瀬さんは、9年前からヨガのある生活を送っている。仕事について、ヨガについて、話しを聞いた。

職人の技から作られる極小の美と
江戸ならではの粋なセンス

——まずは、「江戸小紋」とは、どういうものか教えて下さい。
着物のジャンルを大きく二つにわけると、織物と染め物があります。織物は先に糸を染め、縦糸と横糸を織りながら紋様をつけ、染め物は白い生地に後から染めていくもの。その中には手書きで描く友禅などがあります。江戸小紋は、染め物の中で型を使って染めるという、型染の方法。この、型染の中に「小紋」というジャンルがあり、その中でもより細かいものを江戸小紋と呼びます。

江戸小紋の背景には武家社会があり、武士の「裃(かみしも)(武士の正装)」がルーツ。当時の江戸幕府の将軍徳川吉宗によって“質素倹約を心がけ、派手なものを禁止する”という条例ができた。江戸時代が長く続いたのは、その精神があったからと言われています。そこで武士たちの密かなオシャレとして生まれたのが、一見単色で、無地のように見えるほど細かい、点々によって柄が描かれた、江戸小紋でした。

絵柄には、不老長寿、家内安全、恵比寿大黒、七福神といった縁起物や、般若心境なども。または、大根とおろし金で“大根役者を降ろす”という頓智が効いたモチーフまで。今の時代なら、校則の厳しい学校の学生みたいですよね。抑えられるからこそ、自分の個性をどこかに出してくる。そこから生まれた一つの江戸文化なんです。


さくらんぼや、リンゴなどの身近なものや、幾何学模様など。平成に入ってからは、廣瀬さんが作るドクロ柄など、現代的なモチーフも多数登場している。


型を彫る職人と染師が二人揃い
美しい江戸小紋ができる

型紙になる和紙の繊維は、細かく入り組んでいるため、柄の細かい点々を彫り上げるのは至難の業。コンピューターなら正確に彫れるけれど、これを手で彫り上げるというのが、型を彫る職人の技の極み。次に、その絵型を柄のつなぎ目がずれないように平行移動させながら布を染めていく。このつなぎ目を、いかにわからなくするかが、染師の腕の見せ所です。

着物の一反は幅が38センチ。13メートルの江戸小紋を作るためには、型紙を80回、横に平行移動させながら染めていく。非常に高い技術と集中力が求められる。

自宅に併設された工場。幼少の頃から、ここで働く職人さん達と慣れ親しみ、いつしかここを継ぐと心に決めていたという。


一つの事を基礎からコツコツ極める
職人の技もヨガの鍛錬も同じ

大学卒業後、ウインドサーフィンを辞め、染職人の道に。ところが高度成長期以降、着物を日常的に着る人が減っていく、時代の流れを実感することに。そこで作家(アーティスト)という取り組みも始めました。職人は、お客様の言われたものを形にし、作家は自分の思いで描いたものをお客さまが買ってくれる、まったく逆のアプローチ。時代のニーズにあった新しいものを生みながら、伝統的な技術を残すことに格闘しています。とはいえどちらにしても、技があるからこそ作りたい物が作れるのだと思います。

——技術の腕を上げる秘訣は何ですか?
根本になる、基礎を反復すること。そこからはじめてアレンジができるのだと思います。テニスの錦織君も、一番大事なのは練習だと言っています。基礎がないのは「ただの形無し」、型破りじゃなくて。これは、どこの世界でも同じなんだと思います。実は、自分は飽きっぽい性格だと思っていましたが、ウインドサーフィンも10歳からずっと続けていました。案外、一つのことをコツコツと継続できるとことに、最近気が付きました。

——ヨガはどんなタイミングに始めたのですか?
今から9年前、ウインドサーフィンで足を骨折したのがきっかけでした。ヨガは骨折のリハビリにいいだろうと思い、インターネットで検索して。そこではじめて受けたクラスがアシュタンガのクラス。周りの人達ができてるのに、自分は順番もわからないし、ポーズも全然できない!「なんで、できないんだろう」と衝撃的でした。きっと、できないことにはまったんだと思います。昔は筋トレをしてたけれど、ヨガをしてから、無駄な筋肉はいらないと思いました。野球のイチロー選手みたいに、柔軟性があって俊敏な方が日本人には向いている。もっと早く出合いたかったですね。

高みを目指し、日々研鑽を積んでいく心意気は、精悍な表情にもみてとれる。廣瀬さんは今季、suriaのビジュアルにモデルとして登場している。


ヨガに集中するすることで
作品にもいい影響を与えている

ヨガをやる目的は、健康維持のためと、いい江戸小紋を作るため。ヨガをすると「頭がクリアになる」のだと思います。江戸小紋を作る時は、集中の連続なのですが、それをリセットするには、あえて、江戸小紋とは違うものに意識を集中するとリラックスできると体感したんです。腰も痛いのに、なんでわざわざヨガに行くんだろうって思いながら(笑)効果を実感しているからこそ続けてられるんだと思いました。筋トレが違うところは、そこですね。

——今期のモデルとしてsuriaの広告に登場されました。撮影はどうでしたか?
染工場で職人としての撮影が多いので、ファッションという違うジャンルの撮影で緊張しました。でも、スタッフの方達が「suriaと僕のイメージを重ねて、どんな風に見せたらいいか」というお話しをしていたのが印象的、人と物をクロスして見せていくのが興味深かったです。自分の染職人というフィルターを通して、suriaのブランドがまた違う新しい目線で見てもらえたらと思います。

それから実は、今まで水着やトレーニングウエアでヨガをやっていたので、さすが、suriaのヨガウエアは動きやすかったです、機能性もよく考えられているし。日本のブランド特有の細部へのこだわりを感じました。デザインもかっこいいので、街着としてもいいですね。

——ところで、最近では「茶ヨガ(茶道とヨガ)」など、着物を着ている人達にも、ヨガの実践者が多くなったと聞きました。
今、着物を楽しむ人達は“人は人、自分は自分”という風に、自分のスタイルを確立していて、ある意味、成熟していることが多いですよね。このあたりは、ヨガをすることと似ているように感じます。来年には東京オリンピックもあるので、ここで改めて、日本を世界にPRする一環として、着物だったり、日本の伝統文化に目を向けてもらえるとうれしいですね。



廣瀬さんが着用する2019Autumn/Winter新作コレクションはこちら

廣瀬雄一(有限会社廣瀬染工場)/染師

1978年、東京都生まれ。廣瀬染工場四代目。10歳から始めたウインドサーフィンでシドニーオリンピックの強化選手として活躍。選手時代に世界各地をまわり、大学卒業後は家業の「染め物」という日本の伝統文化で、海外に挑戦する夢を抱く。江戸小紋を世界中に発信するビジョンを実現すべく、国内外の展示会参加や個展、ストールブランド「comment?」立ち上げなど、意欲的に活動している。
廣瀬染工場


Text:村上華子(suriaアンバサダー)

2004年にヨガを始め、綿本彰氏にヨガを学ぶ。ヨガ仲間と共に『HAS YOGA銀座』を設立。また、ヨガの指導のかたわら、中医学をベースにした薬膳フードデザイナーの資格を取得し、ヨガと薬膳のコミュニティー『季結び庵』を主宰。ヨガによる心身の健康法に加えて、日本の風土、四季の移ろいに合わせた薬膳(食養生)のレクチャーも行い、自然と調和した、心地よい暮らし方の提案している。 2015年~アジア最大級のヨガイベント『ヨガフェスタ横浜』に、講師として毎年登壇。さらに、ヨガを中心に心と体に向きあうための記事を執筆する編集・ライターとしても活動の場を広げ、様々な角度からヨガの魅力を伝えている。
季結び庵